ロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピンの大統領に就任したのは2016年6月30日。大統領選挙公約に掲げていた一つが“違法薬物の撲滅”。大統領に就任した直後には「麻薬戦争」を宣言し、麻薬の売人、使用者・容疑者を殺害する超法規的政策が実行に移されました。
日本国内にいる時は、ネガティブな報道を目にすることが多かったように思えたドゥテルテ大統領。しかしながらフィリピン国民からの支持率は依然として高く、国民1200人を対象に2017年6月23~26日に実施されたソーシャル・ウエザー・ステーションズ世論調査によれば、ドゥテルテ大統領に満足しているとの回答は66%でした。
今回はフィリピン人講師のひとりに、ドゥテルテ大統領に対して抱いている印象を聞いてみました。(あくまでフィリピン人ひとりの感想・観点を元にしています)
この度、お話を聞いたのは…大学までジャーナリズム・マスコミ学を勉強していたという24歳の女性(職業:英語講師)。ちなみに、フィリピンでは大学で報道について学んでいないとマスコミ業界に就職するのはほぼ不可能ということです。
「おおむね(ドゥテルテ大統領には)賛成しているわ。もちろん、彼の政策を細かく見ていくと賛成するところと反対しているところがあるけれど」
そう語るフィリピン人講師。彼女によると、おおむねドゥテルテ大統領の政策で意識しているのは6つあり、そのうち4つの政策には賛成、2つは反対だそうです。
薬物戦争…反対
「まず賛成していないのは薬物戦争ね。カトリックの国(スペイン統治時代の影響で、国民の80%はカトリックだと言われている)で殺人を許容するような暴力的なやり方には賛成できないわ」
大統領就任時に6ヶ月以内に違法な麻薬取引を撲滅させることを公約に掲げて選挙戦を展開したドゥテルテ大統領。しかし、就任後、予想以上に薬物の使用状況が悪化していたことに気づいた彼は、6年間の任期丸々を違法薬物対策に要する可能性があることを示唆しました。
「人を殺してまで取り締まることには反対だけど、違法薬物に対する取り締まりが必要なのは理解できる。しかし、『いつ終わるの?』それが気になるわ」
アメリカとの国交断絶…賛成
ドゥテルテ大統領は、2016年9月5日のASEAN首脳会議ではオバマ大統領を「a son of a bitch(くそったれ)」と罵り、予定されていた首脳会談が中止に追い込まれました。CNNによると、同年10月20日にも、北京市で開かれたビジネスフォーラムで演説し「軍事的にも経済的にもアメリカと決別する」と発言しています。
「アメリカとの国交を断絶するのには賛成よ。アメリカには色々とされてきたもの(フィリピンのドゥテルテ大統領は今年8月7日、首都マニラを訪れたティラーソン米国務長官と会談し、アメリカとの関係改善を模索しています)」
中国との関係強化…反対
アメリカとの距離を置く一方、急速にフィリピンが距離を詰めているのが中国です。南シナ海を巡る領土問題が両国の間には根強く残っており、「ほぼ全域の管轄権を主張」していた中国に対して、フィリピンは議論を続けてきました。2016年7月には国際仲裁裁判所が中国側の主張を認めない判決を下したにも関わらず、ドゥテルテ大統領は中国側に優先する発言を繰り返しています。
「しょうがないのかもしれないけれど、中国とべったりすることによって、『南シナの領土については、もう中国に全部譲る』と言っているように聞こえるわ。長い間中国の不当な主張と争ってきたのに、本当にそれでいいの…?」
大学授業料無償化…賛成
2017年8月3日、ドゥテルテ大統領はすべての国立大学の授業料を無償化する法案に署名しました。この政策について彼女は高い評価を下していました。
「フィリピンにはざっくり言うとPublic(国立)、Semi Public、Private(私立)の3つのタイプがあるわ。1セメスター(年間二学期制の一つの学期)で、Publicは大体5~6000 ペソ(約10000~12000円)、Semi Publicは20000ペソ(約40000円)、Privateは100000ペソ(約200000円)かかるわ。このうち国立大学の授業料が無償化されるのはとてもいいことだと思うわ」
ちなみに彼女はSemi Publicの学校出身。しかし、この政策にもフィリピン内部では懸念が残されています。彼女によるとフィリピンでは小学校から高校までPublicでも年間1000ペソ(約2000円)、Privateは年間20000ペソ(約40000円)かかるらしく、結果大学まで通うことのできる生徒は裕福な家庭出身であることが多く、「この政策によって恩恵を受けることができるのは結局裕福な層ではないか」という声もあるそうです。
全土禁煙化…賛成
2017年7月23日より、大統領令によりフィリピン全土の禁煙化が施行されました。彼女はこれにもおおむね賛成。なかでも着目していたのが、日本たばこ産業(JT社)によるフィリピンのたばこ製造会社、MC(マイティー)社の買収事件です。両社の交渉によるとJTの海外事業を受け持つ日本たばこ産業インターナショナル社(JTI)が、MT社の製造部門などを450億ペソ(約1000億円)で買収する契約が締結されたということです。
「フィリピンの喫煙率は本当に高い(東南アジアのたばこ規制団体が2014年に発行した報告書によると、成人人口の約3分の1に相当する約1700万人が喫煙)ので、なんとかするべきだわ。しかも、私が素晴らしいと思っているのはMT社の売却で得た収益を、Pension(年金)として高齢者のために使うと大統領が言っていることよ」
全国一律最低賃金の導入…賛成
ドゥテルテ大統領は2016年9月より全国一律最低賃金の導入に前向きな姿勢を示しています。これには、首都圏の人口過密を軽減する狙いもあるそうです。
「実際には最低賃金で働いている人も数多くいるわ。全国一律最低賃金の導入にはもちろん賛成だけれど、そうした状況の改善もこの国には必須だわ」
ドゥテルテ大統領の人柄
粗暴な言い方、率直な物言いで知られるドゥテルテ大統領。しかし、彼女はこうした大統領の人柄が好きなんだそうです。
「確かに彼の言い方は乱暴で、反感を買うことも多いわ。でも、彼の言っていることは真実ばかりだし、彼を責めることは難しい。汚職の話を聞くこばかりだったいままでの大統領体制と違い、清貧だとも思うし、おおむね好感がもてるわ」
今回はあくまでフィリピン人講師のひとりの意見をピックアップしただけですが、ドュテルテ大統領が大勢の国民に支持されているひとつの側面を垣間見ることができた気がしました。
おび
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